家電を買う。

実は、引っ越す。
引っ越すと言っても引っ越し先は名古屋市内で、何なら今現在これを書いている場所から自転車で20分程。要するに、実家を出るのだ。
実家を出る。
多くの方からすると何て事ないしむしろ経験済でおられる方のほうが多いくらいなんだろうけれども、大学は実家から通える範囲内、大学卒業時に「家を出ようと思う」と両親に話したもののちょっと寂しげな二人の顔を見た瞬間に「やっぱり家を出るのをやめよう、お、お金も貯めないといけないし」と思い直したくらいの重度の親離れの出来ていなさ、その後もこの年になるまでそのまま来てしまった不肖の息子である。一言で家を出ると言っても一大事、おおごとである。
新居は幸い理想的な場所が見つかったものの、家電や家具は一式揃える必要がある。有難い事にお世話して下さるという店員さんを紹介して頂いたので、今日は市内某所の大型量販店へ出掛けてきた。
「私がしっかりと最初から最後までご案内させて頂きますので」と、紹介して頂いた店員 Nさん(仮名)。
腰の低い丁寧な方だな、と思ったけれども実際Nさん(仮名)には大変お世話になった。いや、冗談抜きで新生活で必要な一式を案内して貰った。
Nさん(仮名)は商品知識の幅の広さ(どの売り場で何を訊いてもポンポン返ってくる)もさることながらこちらが何をわかっていないのか、を察して下さりながらこちらが知りたい事をたどたどしく説明してもすぐに拾って理解して下さり、求めている知識を授けて下さる。「これとこれはどう違うのか、どちらがお薦めか」という問いに対しても適度に「私は一個人としてはこう思いますよ」という気配を出して下さりながらちゃんと教えて下さる。「1円でも高いのを売ろう」とかそういう気配が全く感じられなかったし、押しつけがましくもなかったし、かと言って引っ込み過ぎでもないという絶妙な距離感を保ち続けて下さった。
また、商品説明の声色も耳に心地良い音色で、意外とこんな抽象的な事柄にでも人間は購買意欲を刺激され得るのだと知った。プロ、プロである。俺はもう家電はNさん(仮名)からしか買いたくない。帰る頃にはすっかりNさん(仮名)のファンになってしまった私である。

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