Wren and Cuff Pickle Pie B、何故かファズではなくオーバードライブとして好きになってしまった。

娘が生まれてからというもの、TVやニュースサイトで悲しいニュースを見る事が本当に、本当にキツくなってしまった。
幼い子が亡くなるニュースは勿論、「この人も親がいる、誰かの子なんだよなあ」と被害に遭われた方や関係者の方に対して思うといたたまれない気持ちになる。これはもう完全に我が身、我が娘に立場を置き換えて想像するからに他ならない。もし娘が交通事故にあったら、もし娘が事件に巻き込まれたら、もし娘に何かあったら。
悲しい可能性を想像して、心配して、悲嘆に暮れていては埒があかない。だけれども想像力が、振り切れない程の速度で形を成すイメージが僕の邪魔をする。
そんな事が万が一つにも起こらないように、起こり得ないように尽力するだけなのだが、一瞬でも想像するだけで疲れてしまうんだよなあ。
関係者各位の胸の内を想像してはまた悲しい気持ちになる。
明るいニュースだけ知っておきたい、というのは我儘が過ぎるだろうか。手前勝手だが最近そんな事を考える。

さて、話は変わって趣味の話だ。
僕は楽器に限らず、気に入ったりハマったりするとそればかりになってしまう悪癖があって、例えば食べ物でも気に入るとそればかり食べたり連日同じものを作ったりしてしまうのだけど(妻よ、すまない)、当然のようにペダルメーカーに関しても同じで、例えばEarthQuakerDevicesなんかは手頃な価格で中古を見かけるだけで問答無用で買おうと決めている。
Wren and Cuffも一つ買って気に入ったので、では他のモデルも、という具合に買い集めていった結果「やはりここのブランドは信用出来る」と愛着を抱いてしまうに至った。

そんなWren and Cuffの未所持のファズが手頃な価格でオークションに出品されていたので、ついフラフラと発作的に入札してしまったのだった。
これは屈折した心理かもしれないが、オークションに入札する時の心理状態として、半分は「落札したい」という強い気持ちと残り半分は「誰か他の人間が落札してくれ」という、完全に相反する2つの心理が同時に自分の中に湧き起こる。
「落札したい」は欲望へと忠実に向かう心理で「誰か落札してくれ」は家計を守ろうとする一心故に。
今回の場合は「価格が手頃であったがために」発作的に入札してしまった次第なので、もうこれ以上は入札するのはよそう、だなんて思っていたらなんと最初に入札した価格でそのまま落札出来てしまったのだった。


というわけでWren and Cuff Pickle Pie Bである(写真をよく見ると滅茶苦茶汚い。びっくりしたわ、自分でも)。
Wren and Cuffの中では珍しくベース用を謳ったペダルであり、成程、筐体横のブレンドコントロールは確かにベーシストをターゲットにしたもののように思える。
このブレンドコントロール、説明書には「WET側にフルにした状態で音作りをし、そこに原音が欲しいだけ少しずつDRY側に回していって下さい」と書いてあるけれども、興味深いのがその効き方、というか各コントロールの関わり方である。
このタイプのDRY:WETという「全体のどれだけをDRYにするのか」方式のブレンドコントロールはどうやってもDRYがバイパス時に比べてレベルが下がる。
例えばギンギンのディストーションにDRYシグナルを混ぜたとて、そのDRYレベルがバイパス時と比べてレベル落ちしているのであればやはり音としての原音感は失われるのでは、と思っていたのだがどうだろうか。この辺は僕の感じ方がおかしいのかもしれないし、そもそも元の原音感を損ないたくないのであればエフェクターなんて使わなければ良いのだけれども、それはそれとして。

少し前にミキサー方式のブレンダーについて日記を書いたばかりだが、WET100に対してDRY75の比率でミックスしてやれば随分と原音感は保たれる。ベースがベースたらしめられている(こういうと結構ベースとは、を論じているような気持ちになって複雑だけれどもそういう話ではない、今は)低域の量感はDRYのものとWETのものとを併せればバイパス時とほぼほぼ遜色ないレベルで保つ事が出来るというわけだ。
だが、これを本機のようなコントロールでやろうとするとなかなかに調節がややこしい。なんだかんだ「DRYの音をコーティングするような歪みサウンド」を実現するにはDRYを75ほど混ざるように、つまりブレンドコントロール上ではWETが25になるようにセッティングしてやる必要があった。
さて、ここでレベルコントロールである。このレベルコントロール、WETにしか効かない。つまり、DRYはブースト出来ず前述のような「WETの低域感を頂戴する」以外にはバイパス時と同じ低域感を保つ事は不可能である。
ではその状態で低域感を補うとして、レベルコントロールはWETに効くからしてWET信号が25のところをブーストして50にする事も出来るわけである。書きながらこれ、ちゃんと人様に伝わる書き方か心配になってきたな。
しかし歪み具合が目立つまでレベルを上げていくと全体の低域感、又は音量感として「出過ぎる」状態になったりするので、またブレンドコントロールを触ってみたりするわけである。

こう書いていると丁度良いところを見つけ難いペダルのようであるが、何が凄いって慣れてくると割とサクッと音が決まるところである。流石Wren and Cuff、扱いやすくまとめてくれる!
ギンギンのファズトーンみたいなのだとまた違うかもしれないが、僕の意図した「原音が周波数的な観点で突出や削げたりする事もなく、軽くオーバードライブした音」というものを狙うのであればこれは非常に触りやすかった。

これあれなんだね、出自とか全く知らずに買ってみたんだけどWay Hugeのペダルがその設計思想にあるんだね。
元のペダルを知らないのでニュアンスがどうとかはわからないけれど、ファズとしてではなく「歪んじゃった」感のあるオーバードライブとして良いブツであった。
ファズとしてもきっと良いものであろうけれども、今現在、気持ちの上では「これはオーバードライブ」として落ち着いてしまっている。ほとぼりが冷めたらファズとしての研究もしてみようと思う。