君の好きなひと。

友人のイラストレーター/画家のモリエスさんの個展、そのオープニングパーティーへの出演打診があったのは数ヶ月前。

「篠田さんと二人で出てください」

基本的に、明確な意思を持ってお誘い下さる方々のオファーには都合さえあえば可能な限り応えたい。だけれども、真っ先に脳裏をかすめたのは「篠田君と二人で何をやるのだ?」という疑問。モリエスさんは「以前篠田さんのstickamにフナハシさんが乱入したのが良かったので、あんな感じでも大丈夫です」と。

それってつまりトークショーか、ううむ。

今まで何度か救われてきた「思いつき」。その瞬発力と(自分自身への)求心力って半端ないのは僕自身が一番わかっているので、それが降りてくるのを待つ。篠田君と会う度にちょくちょく話はするものの、お互いどこか本格的に腰を据えて打ち合わせをしようとしなかったのは、彼にもそういうところもあったんじゃないか。推測だけれども。

続・我が逃走

未確認尾行物体。

およそこの国ではこの方以上に尊敬する文章書き/作家はいないであろうという方の著作から名前を拝借させて頂きました。先生の著作からバンド名をお借りするのは人生で二度目。素敵な名前でしょう、未確認尾行物体。

よくよく考えたら不完全密室殺人、と名前の感じがとてもよく似ている。

モリエスさんの個展であるという事、そしてカフェというシチュエーション、想定出来ない様々な事を鑑みて我々が目指したのは「朗読にあわせた即興演奏、そして観て楽しい朗読パフォーマンス」。

朗読させて頂いたのは宮沢賢治先生の「注文の多い料理店」。

ユニット名も拝借したものなら、朗読する中身さえも人から拝借。僕の人生というか、ある種表現に対するスタンスの一角を端的に表している。唯一何かを生み出し得るのは篠田君の即興ギター、それに刺激されて僕も気持ちよくやれたらなあ、という感覚。本当に僕はそういう野郎なのだ。才能を搾取しまくる事で自分に評価がくるのならば、僕は恐らくそれを誠実に丁寧に、搾取対象に対しても全力の誠意を以ってして向き合った上で、ためらう事なく行えてしまう人間なのだ。いけねえ、話が逸れた。

一組目に出演という事で、はじめに挨拶を。道化になりきれないまま、始める。篠田君も若干緊張しているのがわかる。そりゃそうだよな、練習らしい練習は敢えてせずに、即興だもんな。即興、インプロヴィゼイションに於いては練習はナンセンスだと思っているし(アウトラインの構築は有だと思っているし、必要な瞬間もあるだろう。本当にインプロをやっている方々に顔向け出来ない事かもしれないけれども、表現結果に誠実であろうとするなればそんな時もある)、インプットを増やしておくにはそうする他なかったとは言え、確かにこりゃあ緊張する。

朗読、これははっきり言って相当楽しい行為だよ。文章は間違いなく一級品、そして話も素晴らしい作品。それを気持ちよく読ませて頂くって昨日一番贅沢してたのは僕だったかもしれないなあ。

で、「注文の多い料理店」って狩人二人が服脱いでくじゃないですか。で、クリームとか塗り込んでくじゃないですか。当然やりましたよ。

『ストーリーテリングの視覚的表現』とか『芸術的な観点から鑑みた肉体的パフォーマンス』とか言えば聞こえはいいかもしれないが、要するに僕みたいなのは体を張るしか出来ないのだ。美しくない方法論かもしれないけれども、少なくともサクッと済ませるのは出来ないし、そうなるとああなってしまう。鷲づかみにした生クリームを前夜すね毛を剃り落とした足に、顔に、耳に塗りこんでいく。ギター演奏を一生懸命やっている篠田君にも塗り込んであげる。二人とも多分見れたもんじゃなかっただろうなあ。

で、頭から香水に見立てた水をふりかけたらいよいよ最低な二人の出来上がり。

未確認尾行物体、カフェにそぐわぬ醜悪な正体を曝け出してライブ終了。

以降はアメニトウタのグッチさんがはんなりなMCに対してビシッと歌う(でも物凄く優しい歌声!)で空気を一変、さよなら三角の村上さんがあのこれ以上なく誠実な眼差しと歌声で会場の空気をまた一変させていた。

うん、本当俺達空き缶投げつけられても文句言えないくらい振り切り過ぎた。でも後悔はないや。

喜んでくれた方々もいらっしゃったようだし、やりたかった事は自分の中の水準をクリアした上でやりきれたし、満足。

未確認尾行物体、もし観たいという奇特な方がいらっしゃったら僕に相談してみて下さい。いないか。

モリエスさん、昨夜展示してあったモリエスさんの描かれた絵、確かにどこか悲しそうな絵が多かったのは僕も会場に入ってからすぐに思いました。でもすぐに、そんな悲しそうな女の子の顔を描いた絵達から何故か優しさを感じました。思うに、モリエスさんの絵を描く姿勢であるとか、悲しそうな女の子に対する姿勢が優しいからではないでしょうか。

そして僕と篠田君にあのような機会を与えて下さって有難うございました。今後僕に何かお手伝い出来る事がありましたら、どうぞお使い下さいませね。

最後に楽しんでくれたお客様、アイディア一発勝負にお付き合い下さり誠に有難うございました。

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